上水沿いの家
Location : 東京都小平市
撮影:川辺明伸
※ことこと設計室
・風土社「チルチンびと」115号掲載
・風土社「チルチンびと別冊68 小さく感じない小さな家」掲載
自然環境豊かな玉川上水沿いに計画した職住一体となる小さな住宅です。
散歩やランニングなどで1日中人通りが多い上水沿い緑道からの視線を遮断しながらも、自然環境との繋がりを感じられる落ち着きのある内部空間にしたい、相反する2つの要件。開きながら私性を保つにはどうすべきか、都市部の厳しい条件下での住宅設計において毎度頭を悩ませられる問題です。
また、計画地は風致地区内にあるため壁面後退と一定面積の緑化が義務付けられ、さらに必要となる駐車スペース等を考慮したうえで導き出される建物のアウトラインは夫婦それぞれのワークスペースを求められる職住一体の本計画を構成するための必要諸室に対して十分ではありませんでした。
そこで天井が高く仕切りのない大きな一室空間の中に高さが異なる3つの床(土間+床下収納・LDK・小上り)を設定しそれらをスキップフロアで構成することで夫婦それぞれの仕事の居場所とプライベートの居場所に見えない境界をつくりました。繋がっているけれどちょっとだけ離れている。ほどよい距離感がいい感じ。
土間から半階持ち上がったLDKからは眼下に土間と板塀で囲われた内庭を見下ろすことになり、これにより外部からの視線をほどよく遮断しながら電線などの人工物が目に入らない上水沿いの自然への視線の抜けを獲得しています。
周辺環境との関係性を丁寧に読み取りながら狙いを絞り込み積極的に外へと開くことで建築面積わずか45㎡(約13.6坪)ではあるが数字では表せない広がりのある豊かな居住空間を確保することに成功しています。
コロナ禍によって自宅で過ごす時間が圧倒的に長くなり住空間に求められる条件も劇的に変化している昨今、この住宅は現代の都市部における小さなお家(おうち)の可能性を示せたのではないかと思う。